1739年にマイセンの絵付師J.D.クレッチマーが中国磁器の染付の技法を用いて、白磁の上に酸化コバルトのブルーで模様を描き完成させたこのシリーズは、世界的にも有名で発表から280周年を迎えた今でも高い人気を誇ります。
玉ネギになったザクロ
ブルーオニオンが伝わった当時のドイツ近郊では中国磁器に描かれた柘榴(ザクロ)がまだ知られておらず、玉ネギと見間違えたためにこの呼び名がついたと伝えられています。ドイツ語のシリーズ名には「Zwiebelmuster(ツヴィーベルムスター)」と名付けられており、これはオニオンパターンを意味します。
初期の頃のマイセンではオリジナルの中国のお皿に忠実に写実的な柘榴が描かれていましたが、見慣れぬ果物は徐々に馴染みのある玉ネギそのものへと変化していきました。「ブルーオニオン」には、柘榴の他にも桃・蓮・竹など、中国で縁起が良いとされる図柄が多数描かれています。
発表当初は馴染みのない絵柄であったためか余り人気が出なかったようですが、1800年代に入り人気が高まりました。すると次第に多くのメーカーがこの「ブルーオニオン」パターンを作り始め、類似品が多く出回ったため、1985年頃からは竹の根元部分にマイセンの双剣マークが描かれるようになりました。
東洋との長い交流の歴史を物語る染付け技法
ブルーオニオンは、染付と呼ばれる「下絵付」の技法で描かれています。
ベーシックフラワーなど「上絵付」のパターンでは、写実的な花や鳥を描くためにペインターの技術が必要です。しかし上絵付では釉薬をかけた後に絵付けをするので、たとえ間違っていても焼成前であれば修正が可能です。
一方、下絵付の場合、陶土を型に固めて乾燥させたのち約900度で素焼きを行った後に、呉須と言われる酸化コバルトを主成分とする顔料で絵付けを行います。
下絵付では砂地が水を吸い込むように素地にすぐに顔料が染み込むため、描いたあとは二度と失敗が許されません。そのため、ブルーオニオンを担当するペインターには、細密な柄をミスなく一気に描き上げる高度な技が必要なのです。
焼成前には灰色をしていながらも炎をくぐると鮮やかな藍色に姿を変えるコバルトに、当時のヨーロッパの宮廷人は驚きを以って「魔法の磁器」として称賛したに違いありません。
そんなことを想いながらブルーオニオンの精緻な柄を見ていると、ペインターの息詰まる緊張感まで伝わってくるようではありませんか?
誕生から280周年を迎え、なお時代を超えて愛され続ける「ブルーオニオン」
現在世界中には約 50 種類のブルーオニオンの食器が存在します。なかでも世界三大ブルーオニオンといえば、マイセン、フッチェンロイター、そしてチェコのボヘミア地方の陶磁器で有名なカールスバードがそれにあたりますが、本家本元はマイセンだと言われています。
他のブランドのブルーオニオンには転写紙を使っているものもありますが、マイセンのブルーオニオンは1点1点職人による手書きです。そのため、目を凝らせば色の濃淡やペインターの細かい筆遣いまで見ることができます。デザインの配置や、白磁との色のバランス、釉薬の質感などオリジナルとしての存在感は伊達ではありません。
「ブルーオニオン」は、その完成度の高さ故にマイセンを代表するシリーズとして、280年ものあいだ時代を超えて愛され続けています。
「ブルーオニオン」の派生シリーズをご紹介します