世界で最も豪華なディナーサービス「フローラダニカ」

ロイヤル・コペンハーゲンを代表するパターンの一つである「フローラダニカ」が、世界で最も豪華なディナーサービスの一つとして評価を得ている背景には、繊細なパーツや装飾などを実現する最高水準のクラフトマンシップがあります。

製作は全て手作業で行われ、陶土が型に流し込まれてから完成して、箱に納められるまで、30人以上の職人が携わっています。プレートに見られる縁取りは、陶土がまだ柔らかいうちにナイフでひとつずつ手作業でカットされます。この作業には寸部の失敗も許されないため、安定した手元と優れた目が必要になります。成形された器は、乾燥後、素地を整えるために初めて窯に入れ、焼かれます。次に施釉のため素地を釉薬に浸し、その後約1400度の窯に入れ2度目の焼成をします。この間に脆い素地は約16%縮むことで引き締まり、硬質で白くつややかな陶磁器となり、焼成中に不純物の混入やひび割れ、ゆがみなどが発生したものはこの時点で全て処分されます。

次に絵付けの部門では、ペインターが植物図鑑の挿絵を手本とし、原画に忠実に一筆一筆手書きで絵付していきます。フローラダニカのペインターは、白い釉薬が施された器と元絵となる植物図鑑の原画を手元に、自身のセンスと経験、創造力を最大限に発揮し、美しいディナーサービスを創り出します。ペインターは、何種類にも及ぶデンマークの植物の中から器に合ったモチーフを選ぶ自由が与えられています。しかし、植物は大きさも原画に忠実に描かれるので、原則的に小さい植物は小さい器、大きい植物は大きい器に描かれることになります。

陶磁器の表面を華やかに彩る植物を決めると、ペインターは器の曲面や不規則な面に合わせて、鉛筆でアウトラインを描きます。花や、葉が茂る蔓、茎などを美しく配置するためには、フリーハンドで描く技術や正確なスケールを再現する技術などが必要とされます。
このように、ペインターのセンスと技術によりフリーハンドで描かれたプレートやディッシュ、ボウルなどは、たとえ同じ植物がモチーフに選ばれたとしても、ふたつとして同じものはありません。ペインターは植物の選定、配置を任されており、植物のバランスの良い配置を考え常に植物学的にも正確に忠実に絵付けしています。

鉛筆を使ってフリーハンドで描いた配置とアウトラインが完成すると、その線をもとに、ペインターはペンとインクを用いて正式なラインを描いていきます。1時間ほどでインクが乾燥した後、最初の着色の作業に取り掛かります。ペインターはまず淡い色調から絵付けしますが、原画に忠実な色を再現するために緑、黄色、茶色、そして青緑、灰色などを混ぜながら必要な色を創り出します。正確な筆使いこそが、ペインターに最も求められる技術と才能です。釉薬の上から絵付けをするオーバーグレイズ技法では、色付けするごとに温度で焼くため、ペインターは窯から出てきた後も作業が続けられるように器にサインを入れます。

1回目の彩色が終わると、器の裏面に、植物のラテン語の学術名が美しいカリグラフィーで記されます。これは1790年以来続けられています。その後、陶磁器を3度目の窯入れへと運び、約850度~880度で焼くことで色を定着させます。植物の光や影が再現され、形も色も原画通りに忠実に描かれた絵付けが終了すると、その器は金彩を施す専門職人に手渡されます。まず、フローラダニカの特徴の一つでもあるピンクの縁でパールを囲います。その後、ピンクの縁内のパールに金色の線を入れ、それを縁取るように並んだ小さなパールと、大きく浮き出たパール、最後にのこぎり歯状の縁取りに金彩が施されます。塗付に適するよう溶液と釉薬が調合された22カラットの金を使用し、焼きつけて定着させます。金彩を施す専門職人も器の裏面にサインを記します。

器は再び窯に入れられた後、フローラダニカの全ての器に施される針葉樹の葉のようなラインが特徴的な縁取りが描かれます。最後にのこぎり歯状の縁に2度目の金が施され、焼成後黒い色をしている金は研磨されることで初めて美しく輝きます。4度目の窯入れの後、金彩が施された縁取りは始めにガラス製のブラシで、その後は目の細かい砂で磨かれ、純金のような輝きを放ちます。

このようにして1790年代に作られてきた時と同様に、完璧なフローラダニカが今日まで製作され続けている理由は、伝統的な技術が途切れることなく引き継がれていることに他なりません。職人は高度な技術だけでなく、常に新鮮な気持ちで作業に取り組み、忠実に再現する植物に対する愛情の深さが、高度な品質につながっています。受け継がれてきた伝統は、熟練した職人の知識によって支えられています。