後世に残すべきボヘミアングラスを求めて

ボヘミアングラスとエングレーヴィング

カットとエングレーヴィング(※)によって、水晶のように輝くボヘミアングラス。
現在、我々が目にするボヘミアングラスと言えば、このような特徴を持ったグラスです。17世紀後期に開発されたカリ石灰ガラスによって無色透明のカリクリスタルが登場し、18世紀にはヨーロッパ中でボヘミアングラスは隆盛を迎えます。しかし、それ以前のボヘミアングラスが一体どのようなものであったかは、あまり知られていません。

ボヘミア地方で本格的にガラス産業が発展したのは13世紀にドイツ語系の人々が移住してきたことから始まります。当時は、ヴァルトグラス(森林グラス)と呼ばれる緑色を帯びたガラスが開発され、一般向けにゴブレットや水飲み用ビーカー、コップなどが作られていました。その後、16世紀から当時イタリア・ルネサンス様式の文化的影響を受けていたハプスブルク家からボヘミア王が選ばれた経緯により、ボヘミアングラスの様式もルネサンス様式の影響を受けるようになりました。

また同時にエングレーヴィングの技術も隆盛を迎え始めます。当時ガラス製品は、ヴェネツィアングラスを始めとして高級品としてヨーロッパに流通していました。その付加価値を高める為に様々な技術が開発されたのですが、ボヘミアングラスの付加価値を最もあげたのがエングレーヴィングの技術です。高い宝石彫刻技術をもった職人たちが、宝石だけでなくガラスにカッティングやエングレーヴィングを施すようになり、ガラス作品の芸術性が格段に上がっていったのです。

 エングレーヴィング
ガラスの表面上に銅や石・ダイアモンドなどの刃をあてることにより絵柄・図柄を描く技法

隆盛を迎える以前のボヘミアングラスの再現

ル・ノーブルでは、チェコの伝統的な技術を継承してきたガラス工房の作家たちと協力し、16世紀末~17世紀中期の作品を再現しました。

これらはプラハ国立美術工芸博物館に保存されているものを始め、古い美術書資料から抜粋した作品です。この時代は、ボヘミアンガラスがヴェネツィアングラスに代わって隆盛を迎える直前の時期です。正に芸術性の高まりが最高潮を迎える時期のものです。

【オートリア(権威)】アンバーを帯びた色味がボヘミアングラスの歴史を感じさせる

ガラスの生地色も当時の色を再現し、アンバーを帯びた色(※)となっており、ボヘミアンガラスの歴史を感じさせる作品となっています。

当時のグラスを再現できる工房は、チェコにも数える程しか残っていません。特にアンバー色のガラスの生地を吹く工房の数は少なく、また形状を再現する技術も熟練の技を必要とする為、工房を探す為に経験あるバイヤーが現地を周りました。

 現在のボヘミアンクリスタルの一つの特徴といえば、無色透明のカリクリスタルですが、17世紀後期(1670年~)にカリクリスタルが登場するまでは、薄い緑色や薄いアンバーがかかった色味がボヘミアンガラスの特徴でした。

【シティック(大いなる戦い)】高い技術を以って再現された図柄

エングレーヴィングの技術もまた、当時の絵柄を再現できるきめ細やかな技術を持った職人がいる工房を探す必要がありました。

エングレーヴァー(職人)によって得意な絵柄が違う為、動物や人物は上手だが当時の絵柄の雰囲気は上手く出せない等、様々な問題があります。エングレーヴァー探しは、実際に目の前でカッティングしているのを見るまでは絶対に決められないものでした。「必ずこの人にカットしてもらって下さい」という約束を取り付けた上で、やっと当時の作品を再現できる目処がたったのです。

このように一つの工房だけでは再現できない為、いくつかの工房を実際に訪ね、話し合いをし、技術を確認し、何度もサンプルを修正した上で生み出されました。

ボヘミアヘリテージ

今回ご紹介している作品は、全て1点ものです。
世界に一つしかないボヘミアングラスを手に、16世紀末の上流階級の生活様式をお楽しみ下さい。