ウェッジウッドのアイデンティティ

英国が生んだ最も偉大な陶工 ジョサイア・ウェッジウッド

ウェッジウッドの創始者、ジョサイア・ウェッジウッド1世(1730-1795)は、英国が生んだ最も偉大な陶工であり、常に時代を先取りする才能に溢れていました。彼は産業革命を背景に量産に耐える生産体制を築く一方、時代を超えて愛されるものを創るためには、優れたデザインを取り入れることが必要であると早くから理解していました。

天才的な産業人「ジョサイア・ウェッジウッド」

2016.08.26
不朽の名作「ダンシング・アワー」

不朽の名作「ダンシング・アワー」

流行に敏感なジョサイアは、当時話題となっていた新古典主義のスタイルを意識し、1774年にジャスパーという新しい素地を完成させ、若き芸術家ジョン・フラックスマン(1755-1826)をデザイナーに起用しました。彼の才能をジョサイアは見抜いており、その後フラックスマンは数世紀の時を超えて不朽の名作となる「ダンシング・アワー」というデザインを生み出し、一般の人に新古典主義の美意識を広く浸透させることに成功しました。

こうして各時代にあった革新的なスタイルを生み出すため、外部の芸術家を招いてデザインを担当させるシステムが始まり、以後ウェッジウッドの伝統の一つとなっていったのでした。これは、芸術と産業を独自に融合しようとした近代的な感覚といえるものでした。

Innovation and Heritage 革新を続けるウェッジウッドの伝統

2012.05.15

ワイルドストロベリーの誕生

現代のウェッジウッドが、実に幅広く自由なデザインを展開しているのは、1930年ごろから始まったウェッジウッド改革期におけるモダンデザインの導入の影響があります。当時世界恐慌の打撃を受け苦境にあったウェッジウッドは、最高責任者であったジョサイア・ウェッジウッド5世(1899-1968)を中心に生産体制の合理化を推し進める一方、デザインの改良にも力を入れ、多くのデザイナーや芸術家たちを招聘しました。

この時、彼らを統括していたのが当時デザイン部門でアートディレクターを務めていたヴィクター・スケラーン(1909-1980)でした。彼はテーブルウェアデザインとその生産を飛躍的に発展させ、多くのデザイナーと協力して、モダンでありながら親しみやすいデザインを次々と発表しました。

ウェッジウッド ワイルドストロベリー

ウェッジウッド ワイルドストロベリー

現在も世界中の食卓に登場しているお馴染みのテーブルウェアデザイン「ワイルドストロベリー」が発表されたのは1965年のことです。ただし、英国の伝統的なモチーフを使ったこの図案は、ジョサイア1世が作ったクイーンズ・ウェアのための最初のパターンブックに既に存在していました。

1956年、ヴィクター・スケラーンによりアレンジされたのち、「ストロベリー・ヒル」として発表されます。このデザインは、同年、英国工業デザイン協会のデザイン・オブ・ザ・イヤーを獲得するなど、当時から評価が高く、これをさらに発展させたものが、現在の「ワイルドストロベリー」と言われています。「ワイルドストロベリー」は、ジョサイア1世時代の図案を大切に受け継ぎ、現代のデザイナーが新しく息を吹き込むことで生まれた新生デザインの一つでした。

革新的な陶磁器デザイナー スージー・クーパー

1940年、バーラストンに新しい工場が開設しテーブルウェアの生産が大幅に拡大すると、これらのデザインの需要はますます高まり、同時代の希求に答える新しいデザインが多くのデザイナーの手から誕生しました。

1930年に自らの製陶会社を立ち上げていたスージー・クーパー(1902-1995)は、1966年にウェッジウッド・グループに加わりました。彼女は1940年に女性初のロイヤルデザイナーに認定されるなど、すでに英国における最も優秀で革新的な陶磁器デザイナーの一人として知られていました。

グレンミスト(廃盤)

グレンミスト(廃盤)

「ブラック・フルーツ」や「グレンミスト」など、ウェッジウッドに参加する以前のデザインもいくつか再製品化されましたが、同社との仕事を新たなるデザインの挑戦と考えていた彼女は、愛らしく意匠された植物のパターンや甘く優しい色彩などが持ち味のデザインから一新し、これまでにない大胆でモダンなデザインを手がけました。

ウェッジウッドの次の伝統

20世紀の間に多くのデザイナーや芸術家によって築き上げられたモダンデザインの精神は、ウェッジウッドの次の伝統となりつつあります。

現在もデザインマネージャーには若手デザイナーを起用し、ファッション業界からもデザイナーを招くなど、ウェッジウッドのデザインの革新は続いています。伝統と革新、そしてモダニズム。同社におけるデザインの変遷は、単にその時代の流行を取り入れたものばかりでなく、誰もが手に取りやすい親しみのある軽快な美しさや普遍性を求め続けたウェッジウッドのアイデンティティの歴史でもあるのです。

イギリスを代表する邸宅と、パラディオ様式にインスピレーションを受けてデザインされたパークランドコレクション

パークランドコレクション

パークランドコレクション

イギリスを代表する邸宅と、パラディオ様式にインスピレーションを得てデザインされた「パークランド」コレクション。

パラディオ様式とは16世紀のイタリア ルネッサンス期の建築家アンドレア・パラディオ氏によって構築された、優美なネオクラシックスタイルのインテリアや建築のことです。古代ローマ建築を研究し、シンメトリーを基本とする様式を重んじた彼のデザインは、イギリスでの新古典主義(デザイン)確立の過程に大きく貢献し、18世紀のウェッジウッドのデザインにも色濃く影響を与えました。

このパークランドコレクションはイギリス陶器産業の里 ストーク=オン=トレントのバーラストンという場所にあるウェッジウッドの工場で製造されています。