Artigianato italiano イタリアの工芸品

イタリアは地中海に面したイタリア半島と、シチリア島やサルデーニャ島など約90の島々から成り、北の国境沿いはアルプス山脈が東西に弧を描いています。古代ローマ帝国発祥の地で、476年に西ローマ帝国が滅亡後、多くの都市国家の興亡を経て、1861年にイタリア王国が成立。1946年、国民投票によって王政が廃止され、共和制へと移行しました。

イタリアは20の州(レジョーネ)の下に100以上の県(プロヴィンシア)、更には市町村にあたる約8,000のコムーネより成り立っています。

概ねイタリア北部は工業、南部は農業を中心とした経済で発達してきましたが、コムーネの中にはかつての都市国家の歴史を受け継いだ地域が多く、都市ごとに見ていくとそれぞれが独自に特徴的な伝統産業を発展させてきていることがよくわかります。

国際的ファッションの中心地・ミラノ

北部イタリア最大の工業都市であるミラノは、国際的ファッションの中心地です。ヨーロッパの繊維・服飾産業は、歴史的にはオランダ、英国、ドイツ、フランスなどが中心で、イタリアが隆盛を極めるようになったのは、高度経済成長を遂げた1900年代後半からでした。

【イッケンドルフ ミラノ】一枚の紙に起こされたアーティストやデザイナーの独創的なアイデアを、吹きガラス職人にまで落とし込むことで、熟練の技術とモダンデザインの融合を実現した製品づくりを行います。他に類を見ない、暮らしを愉しむためのガラスが生み出されています。

1978年に服飾ブランドのプレタポルテ発表会「ミラノ・コレクション」が始まると、パリやニューヨークと並んで最新ファッションの発信地として注目されるようになります。デザインや機能など高い生産技術で国際競争力を堅持することに成功し、“Made in Italy”(イタリア製)は「質の高さ」の代名詞として認知されるようになりました。

手工芸製品の中心地・フィレンツェ

繊維・服飾産業と同様、他の国々との競争で高い価値を持つことに成功した物に、靴や鞄などの革製品や、彫刻、家具などの木製品があげられます。

ルネサンスの発祥地で手工芸製品の中心地でもあるフィレンツェでは、トスカーナ地方の熟練した職人たちが作り上げる上質の製品を通じて、イタリアの伝統手工芸を世界に轟かせました。

また、これらの多くが家族経営など中小企業による製品生産で支えられており、大量生産、大企業化を好まないイタリアの職人気質にも、コムーネや都市国家を土台に地域ごとに独自の発展をしてきたイタリアの歴史的、文化的側面を感じ取ることができます。

【フィレンツェトレイ】イタリアで採れるポプラの木を型どって、ひとつひとつ丁寧に手作業で作られています。商品はどれも木の温かみを残した、伝統的なヨーロッパの雰囲気を残すものに仕上がっています。

門外不出のガラス技法で発展したベネチア

『ベネチアン・グラス』で知られるベネチアは、ローマ帝国の時代から東西交易路の要衝として栄えおり、当時の商人たちが東洋からベネチアに持ち帰った文化の一つに「ガラスの製法」がありました。ベネチアのガラス産業が文献に登場するのは982年が最初ですが、歴史はさらに遡ると言われています。当時は最も洗練された技術として高く評価され、その製法は「門外不出」として厳しく守られてきました。

【バラリン工房】バラリン工房の特徴は、ヴェネチアンガラスの技法の中でも、秘法として門外不出とされていたレースガラスが特徴です。この技法は1400年ごろから、ムラーノ島に工房を持つバラリン家に引き継がれています。まず、カンナと呼ばれるガラス棒が作られますが、この規則正しく整ったレース模様の繊細さや、色合わせのセンスの良さが、マエストロ、ジュリアーノ・バラリン氏の芸術的才能や、技術力の高さを証明しています。

1291年、ベネチア最高議会は、火災防止のために街のガラス工場をすべてムラーノという小さな島に集積することを決定し、さらに新技術の開発を奨励する制度を設けることによって、ガラス職人の技術と芸術性がより極められ、高付加価値なベネチアン・グラスがヨーロッパのガラス市場を席巻するまでに発展しました。

歴史と文化に彩られた国、イタリア

観光や食べ物、ファッションなどを通じて日本人にも馴染みが深いイタリア。イタリアの文化は各都市国家の歴史の上に成り立っています。

ルネッサンスなどの絵画や彫刻などの華々しく栄えた芸術とは別に、それに勝るとも劣らない数々の素晴らしい職人工芸も各都市で発展しました。金銀細工、銅版画、木工、陶器、ガラス細工…。それらは中世期から現在まで代々受け継がれてきた物もあれば、一時中断しながらも再興された物など様々です。

技術を持った職人や中小企業はそれぞれ得意とする分野を極め、現代ではイタリアブランドとして個性や強みを発揮しています。職人工芸、すなわち昔ながらの製法に基づいた伝統工芸品は、大量生産ではない彼らの“手”から創造される貴重な芸術作品といえるでしょう。